遥かなる東京ディズニーシー の話

「千と千尋の神隠し」という映画をご存知ですか。見たことは無くても、流石に聞いたことぐらいありますよね。スタジオジブリ製作、2001年公開。日本における興行収入歴代No.1(308億円)という記録は、2018年の今も破られておりません。いわゆる不朽の名作というやつです。

映画の冒頭、丘の上の新興住宅を目指してやってきた主人公一家は、父親が道を間違えた結果丘と平地の狭間の森に足を踏み入れ、そこで見つけたトンネルを通じて異世界へと迷い込みます。誰もいない街を進む一行。両親は無人の飲食店で勝手に食事を始め、呆れた千尋は1人街をさまよいます。湯屋の前で出会った少年に警告を受け引き返してみれば、豚の姿に変わり果てた両親が!あっという間に日が落ちて、街には夜の灯がともり、この世のものとは思えない化け物達が続々と姿を表して……

転生モノが流行っているようなご時世ですから異世界へ迷い込む作品は数多ありますが、この映画ほど流れるように世界が切り替わる作品は他にないと私は思います。あまりに滑らかで、スクリーン上で不思議なことが起こっているにもかかわらず自然と受け入れてしまうような、素晴らしいシークエンス。何度見ても、後半のとっ散らかり具合を分かっているのに、この冒頭の流れだけで物語世界に引きずり込まれて最後まで見てしまう。逆にこの冒頭を見なければ、途中から見てもイマイチ乗り切れないのがこの映画だったりします。


はて、ディズニーシーの話じゃなかったのか?と思ったそこのアナタ。大丈夫です、ご安心ください。


私はディズニーのテーマパーク、とりわけ東京ディズニーシーが大好きなのですが、特に片方のパークを挙げることの理由の1つは「異世界へのトンネル」にあります。これがまた千と千尋の冒頭に勝るとも劣らない、素晴らしい導入なのですよ。

行ったことがある人は思い返してみて下さい。パスポートを読み込みゲートを通ると目の前には巨大な地球儀を囲む広場。ここはまだ非日常と現実世界との緩衝地帯です。地球儀を横目に歩を進めると、見えてくるのは第2のゲートとも言えるホテル ミラコスタの下を潜り抜けるアーチ。薄暗いトンネルを抜け、空の眩しさに細めた目に飛び込んでくるのは……プロメテウス火山を遠くに臨むイタリアの海。聞こえてくる波の音と地中海の音楽は"遠い世界へ来てしまったのだ"ということを否が応にも思い起こさせます。

この演出に、私は何度訪れても打ちのめされてしまいます。


……と同時に左を見れば、トイ・ストーリー・マニア!、タワー・オブ・テラーのファストパスを狙ったゲストが、さながらヌーの大群のように民族大移動しているんですけどね(苦笑)。もっと!この!景色を!空気感を!味わって!と呼びかけたくなります。まぁ、子供達のためにファストパスを求める親御さんを引き留めるわけにはいきません。分かる人にだけ分かって貰えれば良いのです。


ディズニーシーの恐ろしいところはこの「異世界へのトンネル」がいたるところに口を開けているということです。

分かりやすいところでは、パーク中央のプロメテウス火山の中に位置するミステリアスアイランドは他のエリアから切り離されていて必ずトンネルを通る必要がありますし、リトル・マーメイドの世界をモチーフにしたマーメイドラグーンでも海中エリア アンダー・ザ・シーに行こうと思えば狭い出入口を通る必要があります。アラジンの世界をモチーフにしたアラビアンコーストなどもそうですね。明暗やスペースの大小のギャップを使った手法によって異世界へのトリップ感が演出されている、というワケです。この辺りでは景色に見とれて立ち止まるゲストの姿が多く見られます。

また、シンデレラ城の前のハブエリアから一直線で他のエリアへ行くことが出来るディズニーランドと違い、ディズニーシーは曲がりくねった上に高低差がキツイ道が多いです。これによって他のエリアを巧妙に視界から排し、加えて他のエリアとの距離感が演出されています。一例を挙げますと、入口から左側のアメリカンウォーターフロントへと続く道は、高低差によって徐々にニューヨークの街並みが見え始め、橋を渡りきったところでようやくブロードウェイとウォーターストリートの2本の大きな通りが、その向こうにS.S.コロンビア号の赤い3本の煙突が……と、視線誘導の演出がきっちり為されていることが分かります。ちなみに、開業後に追加されたタワー・オブ・テラーの舞台であるホテル ハイタワーは、この位置から見ることは出来ません。(これ文章だけで分かって頂けるんでしょうか?)

さて、もう1つエリア間のギャップを演出する手法として、ディズニーシーにあって、ディズニーランドには無いものがあります。「パーク内の移動手段」です。蒸気船であるディズニーシー・トランジットスチーマーライン、高架鉄道のディズニーシー・エレクトリックレールウェイの2つですね。アトラクションの1つであると同時に、エリア間の移動をするにあたり効果的な切り替えに一役買っていると言えます。こういった移動手段系のアトラクションは案外乗ったことの無い方が多いんですよね。私としては旅情を感じることが出来て大好きなんですけど。足を休めることも出来ますし。


ここまで書いてきたように、ディズニーシーにはゲストを異世界に誘う仕掛けがたくさんあります。面積としてはさほど変わらないにも関わらずディズニーシーの方に大きな広がりを感じるのは、単純にパーク内の移動距離が大きいこともありますが、世界観を繋ぐトンネルを何度も行き来することの方が大きく影響している、私はそんな風に考えています。


こんな感じでディズニーシーへの愛を語るとかなり頻繁に行っているのだろうと勘違いされるのですが、私は年に1,2回程度です(遠方なので周囲と比べればこれでも多い方かもしれませんが)。もっと行きたいんじゃないかと言われることもあります。それについてはもちろんそうだとも言えるし、そうでないとも言えます。こんな読む人がいるのか分からないような個人のブログで長々と語る程好きではありますが、ディズニーリゾートは私にとって"非日常"であって、それを"日常"にしたくないという思いもあるのです。遠くに行くことが身近になってしまえば、それはもう遠いとは言えません。

えー、冒頭であれだけ千と千尋の神隠しの導入の素晴らしさについて語ったにも関わらず、私は映画のストーリーを明確に思い出すことが出来ません。何度も最後まで見ているハズなのに、映画の後半は画のイメージだけが残り、お話の展開がまるで頭に入ってこないのです。重要なのは最終的に千尋はトンネルの向こうから帰ってきたということ。豚になってしまった両親はもとより千尋も向こう側の世界に取り込まれかけましたが、それでもなんとか帰ってきたのです。異世界を楽しむには帰ってくることが大前提というわけですね。

これは、テーマパークも同様じゃないでしょうか。日常あっての非日常。向こう側に取り込まれてはイカンのです。ディズニーは遠きにありて思ふもの……これは違うか(笑)。

というわけで、東京ディズニーシーはトンネルで地続きになった異世界であって、私にとって色んな意味で遠い場所であるという話でした。

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